黒豆茶庵 北尾

「京の七口」のひとつ、丹波口で創業

今を遡ることおよそ500年前、室町幕府の頃。都には粟田口や鞍馬口をはじめ「京の七口」と呼ばれる関所が置かれ、入洛者は通行税を支払う制度ができた。以来、関所の周辺は人と物資の往来が盛んとなり、近世に入っても賑わい続けたという。

その七口のなかでも、山陰に通じる丹波街道沿いにある「丹波口」で江戸末期に創業したのが、北尾である。

「丹波の山で採れる黒豆や大納言小豆、松茸、栗といった特産品を、こちらで栽培した京野菜などと交換していたと聞きます。丹波の物産は貴重でしたから、御所への献上品となったわけですね。」

と語ってくださったのは、6代目の北尾陽(あきら)社長。やがて、黒豆や小豆などを使った菓子や加工品の小売、京都の菓子店や料亭に向けた砂糖の卸売もはじめたという。

「戦後まで、砂糖は大変な貴重品でした。贈答の需要も多くてね。お歳暮といえば砂糖、という時代が長かったんですよ。」
店内には看板商品の新丹波黒や丹波大納言小豆をはじめ、数々の豆類が並ぶ。
黒豆と小豆

「丹波黒豆」で知られざるブランドストーリー

黒豆といえば、丹波。今や全国ブランドとして知られているが、丹波黒豆の商品としての歴史は意外と浅い。

「丹波で黒豆を売り物として育てはじめたのは、ほんの30年前。それまで、黒豆といえば北海道やったんですよ。」

と北尾社長。黒豆は昭和40年頃の減反政策をきっかけに、各地で大量に作られるようになった。北尾でも丹波産の黒豆を扱っていたが、当時は需要も少なく、なかなか受注できずに苦労したという。

「丹波の黒豆なんて京都ですら知られてなかったから。京都の料理屋をはじめ東京、関西、全国の百貨店に営業して回って丹波黒豆の名を広めていったんです。」

そんなある日、京丹波地方の農協を回っていた北尾社長は、地元農家が守り継ぐ黒豆の野生種と巡りあう。

「大粒でふっくら艶やか、ぶどうのようにぷりっと弾ける。これがほんまにうまい黒豆や、と感動しました。寒暖の差が激しい丹波の気候、肥えた赤土、清らかな水は、黒豆の栽培に最適。この黒豆を、“新丹波黒”と名付けたのです。」

地元農家と契約して苦節15年、新丹波黒の安定した質と量の確保に成功した。社長曰く、丹波産の黒豆が全国に認知されるまでにはさらに15年の月日を要したという。

「でもまさか30年で、丹波黒豆がここまでブランドになるとは思わなかったですよ。」

と、北尾社長は目を輝かせる。

北尾社長は30年の歳月をかけて、新丹波黒の美味しさを全国に伝えた。
黒豆ジャムと黒豆おかき

なぜお正月には黒豆を食べる?

お正月のおせちには、なぜ必ず黒豆が入っているのだろうか。

「本来黒豆は旧正月が旬のもんやから、昔はお正月が一番の食べ頃やったんです。“まめまめ(豆々)しく暮らせますように”という語呂合わせは後からついてきたもん。あとは、お重に映えて美しいのと、体にええからなんでしょうなあ。」

というのが、北尾社長の見解だ。昔から黒豆炊きといえば大晦日の風物詩であり、姑が嫁の料理の腕を試す皮肉話としても知られたもの。

毎年収穫された黒豆は自ら炊いて味を見るという北尾社長が、美味しい黒豆の炊き方を伝授してくださった。

「皆さん、黒豆炊きを難しく考えすぎですわ。こだわりなんか何もいりません。弱火で順番どおり炊くだけ。砂糖もお家にあるのでええんです。うちの“京・丹波ぶどう黒豆”を炊いていただいたら、楽さがわかりますわ。石油ストーブがあれば、鍋を丸一日かけといたら丁度ええんですよ。」
京・丹波ぶどう黒豆を炊いて、新年のおせちに。むっちりとした食感と上品な甘さが楽しめる。
少しでもおせち作りの手間を省きたい際には、極軟ふくませ煮 利久栗甘露煮や袋入り京・丹波ぶどう黒豆も便利。

小豆で健康に。昔の知恵を旧暦から学ぶ

「最近は、黒豆が健康にいいと各マスコミでも取り上げられてますけど、昔から体にええと言われてるのは小豆です。小豆は腸の消化を助けるうえ、体内の毒を出す力があって糖尿病にもええんですよ。」

小豆を食べて健やかに暮らす秘訣は、日本ではおなじみの旧暦や年中行事にあるという。

「まずは1月15日に食べる小豆粥。それから春と秋に食べるお彼岸餅。お正月の暴飲暴食で胃腸が疲れてる時、春や秋など季節の変わり目で体調を崩しやすい時に小豆を食べると、腸の働きもよくなって新陳代謝も高まるんです。

旧暦には、小豆を食べて体を整える習慣が上手いこと織りこまれてますね。昔の人は今みたいに情報がなくても、ようわかってはる。」

日本人の暮らしの中で受け継がれてきた、健康に役立つ豆々しい知恵。新しい年には先人にあやかって、小豆を食べる風習やその意味も見直してみたい。

このインタビュー記事は、【京都で創業の老舗が集まる、京都ブランドショッピングモール「老舗モール」】様にて掲載されたものを引用しています。

大粒で風味豊かな京・丹波大納言あずきで、少し贅沢な小豆粥を。
体によいおやつとして、手軽な京・丹波大納言小豆ぜんざいもおすすめ。
「赤や黒の艶やかな豆の色には、人を惹きつける魅力があるんやと思います。」と微笑む北尾社長。
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